4つの流動的要素   −7人−







10.





オンラインミーティングは十五分ほどで終了したのだが。

「おいヴォルフ、大丈夫?」

ユーリに真剣に心配されるほど、ヴォルフラム は憔悴していた。

勝利と五大陸のメンバーは盛んに対話を続け、ウェアラブルでデータのやり取りをし、 きびきびとミーティングを進めていたのだが、ヴォルフラムは全くそれについて行け なかったのである。

ミーティング中は知らない情報、専門用語のオンパレードでとにかくさっぱり 分からないし、ウェアラブルの操作にも戸惑いっぱなし。おまけに見慣れないディス プレイのお陰で目が酷く疲れたらしく、ゴーグルをはずしたとたん眩暈に襲われ、 デスクにへたり込んでしまった。

「悪かったわ、配慮が足りなくて……」

フェイスが申し訳なさそうに ヴォルフラムの肩をさする。だが彼は割とすぐに起き上がった。

「いや、大丈夫だ。すまない……それより」

「うん?」

ヴォルフラムの目が軍人らしい強い光を湛えた。

「さっきの会議、随分と物騒な単語が飛び交っていたように思えたんだが。 ……誘拐、監禁、殺害」

とりあえず耳についていた言葉を並べるヴォルフラム。

メンバーは顔を見合わせたが、やがてジャスティンが口を開いた。

「詳しく説明するよ」

彼もまた、元軍人らしい引き締まった表情になった。

「ヴォルフ。いま俺たち五大陸が追っているのは、地球産魔族にターゲット を絞った誘拐事件なんだ」

ヴォルフラムの眉間に皴が寄った。








ジャスティンの説明はこうだ。

今から二年程前からのこと。

欧米各地で、二十五歳未満の勝利の配下、つまり地球産魔族が、ぽつぽつと行方不明 になる事態が起こり始めた。

何の前触れもなく、フッと家に帰らなくなる。その後に身代金の要求があった りするわけでもなく、本人だけが消えてしまってそれきり、という事態が幾つもあった のだそうだ。

だが、はじめのうちは問題にならなかった。世にごまんといる家出人や失踪者たち のうちの、ほんの数例としか見られず、勝利にも手の施しようがなかったのだとい う。

ところが半年ほど前のある日、突如とんでもないことが明らかになる。

テネシー州メンフィスで行方不明になった、ある地球産魔族の少年が、行方不明になってから 七日後に自力で帰ってきたのだ。だが彼の服装は乱れ、酷く汚れた全身からは生き物の血液 と臓物の匂いをさせていた。彼の無事を喜んだ家族でさえも、一目見てぎょっとしてしまうような姿 だったのだという。

そして彼は、信じ難い証言をした。

その少年は、狂信的なカルト集団に連れて行かれ、監禁されていたと言うのだ。

他にも何人か連れてこられた若者はおり、人種、年齢、出身地、社会的身分 などはまちまちであったが、唯一共通していたのは、全員、魔族であるというところ だったらしい。

そしてその集団は何をやっていたかというと、若い生身の魔 族を使って、あらゆる黒ミサやら儀式やらを試していたのだという。

さらってきた魔族の髪の毛を刈り取って丸坊主にする、肌に刃物で魔方陣を刻む なんていうのはまだいい方。手酷いやり方でレイプされる者もいたらしい。

全身の血液を抜き取られる、生きたまま四肢を切断され る、目をくりぬかれるなどして、じきに殺されてしまう者も少なくなかったという。

そのカルト集団がどういった者たちの集まりで、何故そうやって魔族に限定 して手を出しているのか。詳しいことは不明だが、その地獄のような場所から脱出し てきた少年の証言によって、ただちに厳戒態勢がしかれることとなった。

『五大陸』が動き出すのもその辺りからだったのだという。








「狂信的な悪魔崇拝の一種か何かだとは思うんだけど、そのカルト集団の実態は まだはっきりとは掴めていないの。ああいう団体って、実態を捉えるのが難しいのよ。 でもね、その集団と取引している連中の存在は掴めつつあるの」

「取引している連中?」

ポーラが、ええ、と頷いた。

「魔族をさらっているのは、どうやらその集団のメンバーではないらしいの。別の 奴等がやっているようなのよ。そいつらは若い魔族の子を適当に見繕って誘拐し、引き渡す 見返りにカルト集団から報酬を貰っている。そういうビジネスらしいのね」

「じゃ、夕べ叩きのめしたあの四人が……」

「あのうち二人がその『誘拐専門屋』ね。残りの二人は違うけど」

「残りの二人は、『誘拐専門屋』が更に雇った悪徳技術屋だよ。ショーリのオフィス に忍び込ませて、地球産魔族の名簿をコピってくるように依頼したんだ。それが あれば仕事が楽になるからね。ったく、やることがどんどん横着になってやがる。 自分でやれっての」

「ま、その名簿の引渡しは夕べ俺たちが阻止したわけだけど、それだけじゃ 何も解決してない。まだ捕らえられたままの魔族の子達を救出し、誘拐専門屋と例 のカルト集団を潰さなけりゃならない」

「それが私たちの任務なわけよ」

メンバーたちの表情がぐっと強みを増した。









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