4つの流動的要素   −7人−







11.





ヴォルフラムはたっぷり五秒は溜めてから口を開く。

「そんな危険な任務を、この少人数でやるのか?」

「ショーリやその部下のバックアップはちゃんとあるぜ。ま、最前線で動くのは 俺たちだけだけどな。一応、非公式なエージェント集団だから、あまり派手にやら かすのはまずいんだ。第一、目立ったせいでターゲットに逃げられでもしたら元も 子もないだろ」

「それもそうか……」

「で、ヴォルフさ」

ユーリにいきなり話を振られ、ヴォルフラムは目をぱち ぱちさせた。

「俺たちはこれから、カルト集団と誘拐専門屋を追い詰める ための捜査に入るんだけど、お前にもやって欲しい仕事があるんだ。……まあ、お前 さえ嫌でなければの話なんだけど」

ヴォルフラムの目にやる気がみなぎる。

「僕に出来ることなんだったら言ってくれ。 何をすればいいんだ?」

ユーリがフェイスに視線を向けた。それを受け、 フェイスが後を引き継ぐように言った。

「ヴォルフ、あなたにお願いしたい ことはね。――この子の相手をして欲しいの」

「……え」

フェイスの指は、ウォルトンが入ったPCを差していた。

「……ま、要するに、 ウォルトンとコミュニケーションを取って貰いたいのよ。それでAIがどう進化する かを見たいの。何に関してでもいいから、この子とひたすら喋り倒して欲しいのよ」

「……ちょっと待ってくれ」

ヴォルフラムは両手を前に出して 制した。

「……今、魔族を食い物にしている集団を追い詰める捜査を開始 する、って話をしてたよな」

「ええ」

「……それと、この機械と 喋り倒すことと、どういう関係があるんだ」

ウォルトンが、「機械ゆーな、AIと呼べっ!」と抗議の声を上げる。

「あのさ、ヴォルフ」

ユーリが口を挟んだ。

「ウォルトンのAIの進化とその過程の記録は、フェイス……もといフェイス・リー 工学博士を通じて五大陸に任されている、重要な任務の うちの一つなんだよ。確かに今は、魔族誘拐の件を何とかするのは優先事項だけど、 それは俺たちエージェントがかかるべきことだ」

「…………」

納得いかなさそうな渋い顔のヴォルフラム。彼の性格からして、 魔族が手酷い目に遭っていると聞いて、黙っていられるはずがない。出来れば能動的 に働きたいのだろう。

だが、此処は地球だ。剣と魔法が幅を利かせる眞魔国 とは違う。

「お前が一流の軍人なのは分かってる。でも、銃と情報で戦うのが地球のやり方 なんだ。はっきり言えば、剣士であるお前には向いてない」

昔のヴォルフラムだったら、こう言われれば更に駄々をこねただろうが、今の彼は そこまで子供ではなかった。

「……これと、会話をしていればいいってことなのか?」

「そうよ」

フェイスが目を輝かせた。

「一応、今のところこの子は英語と日本語を話すことが出来て、極めて高度な電算処理 等が出来るなどといったことを除けば、知能と学力は一般的な大学生並みくらいには なっているの」

「で、そこから更に知能を引き上げたいと?」

「いえいえ、ただ知能を引き上げたいだけなんだったら、わざわざ貴方にお願いする ことはないわよ。
――貴方に頼んだのはね、この子に異世界のこと、貴方が生まれ育っ た眞魔国についての知識を入れてみて欲しいからなのよ」

「……異世界のことを?」

フェイスは頷いた。

「そう。異世界のことに関しては、この子全く知識が無いから、是非教えてやって欲 しいの。それでAIがどう進化するかを記録したいのよ」

ヴォルフラムはウォルトンを――正確には、ウォルトンの入ったPCの画面を―― まじまじと見た。

機械を相手に喋り倒す――全く未知数の課題を与えられた気がした。確かに、ウォル トンがそういうことの出来る存在だということは、ヴォルフラムも一応理解していた が、目の前に突如として広大なグランドキャニオンが現れた気分である。

緑色のランプがピコピコと点滅する。

「ヴォールフラームくーん、お願い出来るーぅ?」

しなを作ったような (見えないが)物言いを、フェイスがすかさずたしなめた。

「これ、気持ち悪い言い方はやめなさいよ。……どう、ヴォルフ。異世界のことに 限らなくてもいいから、とりあえず興が乗るに任せて、この子と喋り捲ってみて 貰えない?それだけでいいのよ」

銃も扱えず、コンピュータ機器も捜査出来ず、能動的な働きで役に立てない以上、 断る権限は自分には無いように思えた。同時に、自分に出来ることを作ってくれる 彼らに感謝したい気持ちにもなった。

ヴォルフラムは頷いた。

「分かった。やってみよう」

「うわぁーい」

ウォルトンの緑ランプが超速で点滅しまくった。

「有難うね、ヴォルフ。この子の相手をまともにするのは結構大変だけど、宜しくね」

にっこり笑って礼を言うフェイスの後ろで、ジャスティン、ポーラ、パスカル は何とも気の毒そうな表情になった。

パスカルがぽつりと呟いた。

「……本当に大変だぞ、そのtalkative(お喋り)の相手をするのは」











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