4つの流動的要素   −7人−







2.





「ご、たいりく……?」

ぽかんとしているヴォルフラムに向かって、ユーリ、ジャスティン、ポーラ、パスカル、 そしてフェイスは
悠然と微笑んだ。

「そう。それが俺たちの団体名。五人の地球産魔族と一体のAIで結成されてる エージェント集団だよ」

「……じゃあ、さっきの男が言っていた『例の五人』っていうのは……」

「俺たちのことだと思うね。もっとも、俺たちはウォルトンも一人と数えてる から、六人と呼んで貰いたいんだけどね」

「AIの人権をこうも尊重してくれるところなんてそうそうないよーぉ。有難くって 涙が出る!」

と、ウォルトン。

「え、ちょっと待て。じゃあ猊下は?」

「んー、残念だけど僕は『五大陸』には入れて貰えなかったんだよねえ」

「人聞きの悪いこと言うな。仕事があるから無理だって言ったの誰だよ」

「そう言えばケン、あなた今普通にアトランタにいるけど、仕事は大丈夫なの?」

「大丈夫だよポーラ。もともと時間の自由が利く仕事なんだし、第一こういう 時のために代休ってもんがあるんだから。……まあでも、そろそろ帰国しないといけ ないけど」

村田は腕時計を見ながら言った。

「悪ィな、ここまでヴォルフ連れて来て貰ったのに、ろくに構いも出来なくて。地下鉄 の駅まで送ってくよ」

「え、いいの?でもフォンビーレフェルト卿は……」

「ちょっとの間だから。 こいつらに任せておけば大丈夫だろ。とういわけでヴォルフ、俺、ちょっと村田を 駅まで送ってくるから、此処で待ってて!」

「え」

途端にヴォルフラムが捨てられた仔犬みたいな顔になる。

「すぐ戻ってくるから!その間、こいつらと親交深めてろよ、な?」

そう言ってヴォルフラムの肩を叩くユーリ。ちょっと間を置いてから、ヴォルフラムは 若干不安げな表情をを残したまま、

「……分かった」

と頷いた。

「じゃ、僕は日本に帰るねー、フォンビーレフェルト卿、みんなに迷惑 かけないよーにねー」

「あ、猊下。……その、色々、有難う御座いました」

終わりに近づくに従ってぼそぼそ声になっていったが、ヴォルフラムは 村田に素直に礼を言った。ユーリがちょっと驚いた顔でヴォルフラムを見る。

村田は眼鏡を押し上げながら苦笑いした。

「……ま、来て良かったと思えるかどうかは、まだ分からないだろうけどね」

「え?」

「村田」

ユーリが村田の背中を押す。

「そろそろ行こうぜ。もう時間もそんなにないんだろ?」

「ああ、うん。 ……そいじゃ、みんな。またメールするね。ばいばいきーん」

いつ覚えたのか、地球産魔族が揃って「バイバイキーン」と手を振った。



さて、バンから村田とユーリが出て行ってすぐ。

「ヴォルフラム!そんなとこ突っ立ってないでこっち座ったら?」

と、 ポーラに手招きされた。壁に小さめのベンチ状の椅子が取り付けられており、 ジャスティンが場所をあけてくれた。

「ねえねえ、眞魔国の話、聞かせてよ。ユーリに聞いてもあんまり詳しく教えてくれ ないんだもの」

「空飛ぶ骸骨とか土に埋まる骸骨とか水の中を泳ぐ骸骨がいるっ て本当なのか?」

「向こうの魔族は、400年くらいはざらに生きるって 聞いたが……」

「陸での交通手段が馬か馬車って本当?電車も走ってないの?」

興味を押さえられなくなったのか、質問攻めだ。

ヴォルフラムは一瞬怯んだが、四人の目を見て、皆、単なる好奇心で訊いてくる だけのようだとすぐ判断した。

それに、彼らはユーリの仲間だ。
ユーリの仲間 が、自分に興味を示してくれているのは、喜ばしいことじゃないか。そう思えた。










「じゃあ、まだ詳しい話はしてないんだな?俺たちが何をやってる団体なのか」

村田は頷いた。

「うん。『五大陸』の結成目的、活動内容、そういったものは一切話して ない。彼は知りたかったはずなんだけどね。でも、何となくいつも話が他の方向に言っちゃ って。説明する機会がなかった」

「お前が話を他の方向に持ってってただけなんじゃねーの?」

「違うよー。それに、彼は自分の口で言ってたもん。ユーリのやってることの内容 如何によってはやめさせようとか、そんなことは思っていない。こちらの事情をよく 知りもしないのに、そんなこという権利は僕にはない、って」

「……そうか」

ユーリは、少し視線を下げ、頷いた。

「『五大陸』にフォンビーレフェルト卿を加えた後の方針、決めてあるの?」

「それはもう話し合ってある。よっぽど迷惑になるんなら向こうに帰らせることも 出来るよ、ってみんなに言ったんだけど、でもみんなは来て欲しいって言ってくれた。 単に、向こうの美形魔族を見てみたいっていう興味だけじゃなくて、ちゃんと役に立って 貰えることはある、って判断した上でね。だからもう、ヴォルフは満場一致で、『五大 陸』の七人目のメンバーってわけ。……ま、本人が嫌がらなければの話だけど」

「渋谷が『五大陸』にいる限り、嫌がることはないでしょー。それに今頃……」

視界に地下鉄の駅を確認してから、村田はちょっと笑って言う。

「『五大陸』がどういう団体なのかについて、説明受けてるんじゃないの?」










その頃、『五大陸』の偽装車の中には、地球産魔族たちの馬鹿笑いが響いていた。

それこそもう、

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

「どわははははははははははは」

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

「きやーはーはははっはははは」

奇声の大合唱である。

「信じられない!相手を引っ叩いたらプロポーズなの?うっわー 何それぇ!?」

「じゃー向こうの魔族って、本当にカッとなったときは どうすんの?引っ叩いてたらそれこそもームカつくたびに誰かにプロポーズすることに なっちゃうじゃん」

「いや、それも意外と悪くないんじゃないか?それこそ 汝の隣人を愛せよ、ラブ&ピースを実践してることになりそうだしさ」

「それ最高!世界平和は平手打ちから、ってか!」

そしてまた、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、きゃーはははははははは、だ。

このテンションの高さに当初は呆気に取られていたヴォルフラムだが、今では釣られて 自分まで笑いそうになっている。

昔の自分だったら、貴族古来のしきたりを こんなふうに笑いの種にするとは、と怒り出すに決まっていたが、今ではそんな気も 起きやしない。

僕も丸くなったものだ、と思うとまた笑いそうになる。

「あー面白い。今までユーリに君との馴れ初めを詳しく訊いたことはなかったけど、 まさかそんな漫画みたいな話だったとはねえ」

ジャスティンがそう言いながら、上気した顔を手で擦った。

「ほんと、世界が違けりゃ風習も全然違うのね。興味深いわ」

とフェイス。

ここで、ヴォルフラムは思い切って訊いてみることにした。

「……あの、今度は僕の質問に答えて貰いたいんだが」

「なあに?」

「この……『五大陸』というのは、何をやる団体なんだ?さっきユーリは『エージェント 集団』だと言ったが、僕はまだこちらの常識に疎いから、それが今一つ理解しきれな くて」

ヴォルフラムのこの言葉に、四人の地球産魔族は一瞬顔を見合わせた。 が、程なくしてパスカルが言う。

「どのみち、説明しなけりゃならないんだから、今言っても問題ないんじゃないか?」

「ユーリがいないのに?」

「これぐらいで怒るような奴じゃないよ」

その一言で、それもそうか、という雰囲気になる。そして、ポーラが口を開いた。

「ヴォルフラム、チーム『五大陸』はね、地球における魔族絡みの犯罪や 荒事を、調査解決する部隊なのよ」









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