兄さんの敵は・・・










まだ直人と直也が、群馬の施設にいた頃の話。




その日、直人は一人で、森の中にある岬老人のロッジに赴いていた。

いつもなら直也と二人で行くのだけれど、今日は誘っても「僕はいいよ。兄さん一人 で行ってきなよ」とにべもなく断られてしまった。

というのも、直也は昨今飼い始めたハリィという犬に夢中なのである。

・・・正直、ショックだった。

そういえば最近、直也は俺に構ってくれない。

ちょっと前までは、兄さん兄さんといつも俺の後をくっついてきてたのに、あの 大して可愛くもない犬を飼い始めた途端、犬にかまけっきりで、俺のことは二の次 三の次だ。

畜生、犬のくせに直也にべたべたしやがって。

一人で岬老人のロッジから戻り、帰るべき研究所の建物が見えてくるにつれ、直人は ハリィと直也の仲睦まじい様子を思い出し、鬱になり始めた。

あー、あの犬さえいなければ。

本気でそう思ったが、直也からハリィを奪うのは、いくら直人でも出来そうになか った。直也が泣くし、第一それで直也に嫌われでもしたら、それこそ本末転倒である。

あー畜生。

直人は苛々と頭を掻き回しながら、研究所に向かって歩いていた。

その時である。

ハタと視線を上げると、研究所の建物の方から、自分の方に向けてとことこ走って くる人影があるのに気付いた。直也だ。

それもただ走っているのではない。

直人に向かって大きく手を振り、満面の笑みを湛えてこっちに向かってくる。

それを確認した途端、直人の鬱な気分は一気にぶっ飛んだ。

そうかそうか直也、俺の帰りを待ってたのか。そんなに俺に会いたかったのか。
手なんか振っちゃってまー可愛い奴め。おいおいそんなに走って転ぶんじゃないぞ、 ああそれならあれだ、あのまま俺の腕ん中に飛び込んでくるつもりなんだろうな、 いいともいいとも、こういう日も来ようかと俺は日々鍛錬してるんだ。御厨に 変な顔されながらも、あらゆるトレーニング器具取り寄せさせて良かった。 あー直也、やっぱりお前は兄さんが一番いいんだな。

・・・とか何とか考えているうちに、満面の笑顔の直也はあっという間に直人の もとに近づいて来、そのまま兄の腕の中に飛び込んで・・・は来ず、スピードを 落とさぬまま、兄の横をさーっとスルーした。そして。

「ハリィー!」

両腕を広げかけたまま固まっている直人の後ろで、ウォンと犬の声がする。

凍りついた表情で振り返ってみると、直也は森から駆けてきたらしきハリィを 両腕に抱き込み、顔を舐められながらも嬉しそうにしている。

「もー、いきなりいなくなるから心配したよぉ。駄目じゃないか、勝手にひとりで 森の方に行っちゃ」

分かってるんだか分かってないんだか知らないが、ハリィは直也のたしなめる声に クーンと可愛らしく返しながら、盛んに直也にじゃれついている。

「これから外に出る時は僕も一緒だからね、分かった?さ、戻ろうか」

直也はすっくと立ち、踵を返した。ハリィを横に従え、来た道を戻り始める。

そして、まだ固まっている直人の横を通る時、今気付いたかのように、

「あ、兄さん、お帰りなさい」と言った。

その日、研究所ではテレビ、蛍光灯、食器をはじめとして散々色んなものが壊れた。
そしてこの日を境に、直人はハリィを公然とバカ犬呼ばわりするようになったという。










ま、よくあるタイプのネタで御座いますけれど・・・(汗)。
でもあの外伝を読んで、絶対直人は犬に嫉妬しているに違いないと思いましたので。




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