4つの流動的要素   −7人−







3.





その言葉の意味を分かりかね、ヴォルフラムは相手の言葉尻を掴んで聞き返した。

「部隊、ということは、軍事組織なのか?」

「いや、そんな大層なものではないよ。表向きには存在しないことになってる非公式な 組織だし、見ての通り、メンバーはウォルトンを含めて六人と極めて少数。国や省庁みた いな後ろ盾があるわけでもないしね。ま、ショーリのバックアップはちゃんとあるけど」

「実際に動いているのは私たちだけど、『五大陸』のボスはショーリってことになるわ ね。彼がバックアップしてくれなかったら、とても出来ないわ。……つまり『五大陸』 って、地球の魔王陛下の私設部隊ってことになるのかしら」

「組織の位置づけはそういうことだとしても……」

ヴォルフラムはまだ整理出来ない。

「犯罪や荒事を調査解決するのが任務なら、することは軍と変わりないわけだろう?」

「……うーん、君が何をイメージして軍部の任務と捕らえているのかはよく 分からないけど」

「もしかして、眞魔国って警察組織ないの?国立の捜査局 とかも?」

「犯罪捜査と治安維持をこなす役回りなら、国家所属の軍の仕事だが」

その言葉に四人は目を丸くする。

「……ある意味、シンプルでいいわね」

「まあそれはともかく」

ジャスティンが仕切り直す。

「まずは結成目的から順番に説明するよ。地球では、人間とは別に魔族という種族がいることが一般的に 認知されていないんだ。それは知ってる?」

「ああ。ユーリに聞いている」

「それって、こっちの魔族は君の住んでる世界と違って、あんまり人間と変わりない からなんだよ」

「魔力みたいな特殊な能力もないし、見てくれもおんなじだし、若干長生き なだけで、魔族であるがためについてまわるものなんてのも、そんなにないのよね」

「魔族だけ集めた国家なんてものもないし、フツーに世界中に散らばって 暮らしてる。だから本来は、かつて君の世界がそうだったように、人間と 魔族のいがみ合いや対立なんて、ありえないはずなんだ。今でも表向きはそうなんだ よ。でも……」

パスカルがそこで言葉を区切ったのをきっかけに、他の三人の表情が少し曇る。

「最近になって、俺たち地球産魔族を狙った不穏な動きが目立ち始めるように なった。特に欧米でね」

「不穏な動き……?」

ヴォルフラムの脳裏に、 いつかの大戦の記憶が蘇りかけた。が、そこにジャスティンが口を挟む。

「ああ、言っとくけど戦争とかじゃないよ。そんな国際規模の話じゃない」

「極めて利己的な一部の分子による、魔族を食い物にした犯罪。それも相当悪質な やつね。それがはびこりつつあるのよ」

フェイスがそう言って唇を噛んだ。

「それは、人間によるものか?」

ヴォルフラムがそう訊くと、フェイスは表情を和らげて言った。

「さあ、多分そうなんだろうけど……でもそういうことは別に問題じゃないわ」

「問題じゃないって……」

「種族については別にどうでもいいのよ。 ていうか、この地球に住む人類は大半が人間なんだし」

「そう。肝心なのは、 既にそういう犯罪が起きてしまっていること。しかも魔族という種族が認知されていない がために他の大多数の犯罪に埋もれて、見逃され易くなってることだよ」

「魔族狙いだっていう線で追えば突破口が見えるかもしれない事件でも、それがされ ないから……」

「そういった事件を何とかするために、俺たちは集められたんだ」

その言葉に、四人の瞳が力を持つ。

「ショーリ、もとい渋谷ブラザーズの管轄の下、世界中の地球産魔族の中から、任務に 適した人材をピックアップしてスカウトし、少数精鋭のエージェント集団を組んだって わけ」

ようやくヴォルフラムの中で合点がいった。

「それが、『五大陸』なのか」

「そうよ。ちなみにね、『五大陸』っていう 名前の由来は、私たちの血筋と国籍にあるの」

「血筋と国籍?」

「そう。地球における大陸を大きく五つに分けると、アフリカ大陸、ユーラシア大陸、 アメリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸、ってなるの。これは地域によって数 え方が違うみたいなんだけどね。で、私たちの血筋と国籍、それらが場所的に属する大陸 をざっと挙げてみると、この五つの大陸を殆どコンプリートしてるのよ」

「俺たちって、血筋と国籍が必ずしも一致してなかったりするから。一致してるのは 生粋のオーストラリア人の俺と日本人のユーリくらいなんだ。フェイスは中国、 ポーラはイタリア、パスカルはもっと複雑で、アルジェリア系フランス、でも 三人とも国籍はアメリカだもんな」

「だから『五大陸』ってわけ。ま、南極は含まれないんだが……強いて言うならそこは ウォルトンだな」

「そうそーう」

PCの緑色のランプが盛んに点滅した。

「100%ミスをしない、絶対零度のコンピュータ!南極のイメージにあっていなくもない ねーぇ」

「これ、少しは謙遜しなさいよ」

とフェイス。

「ああ因みにね、ヴォルフラム。ウォルトンを作ったのはフェイスなんだ」

「え、そうなのか?」

目を丸くするヴォルフラムに、フェイスは微笑んだ。

「そうよ。私が産みの親。PCの中に内在して、自我を持ち、成長できるAIを作れたら と思って学生の頃からずっと構想を練ってたの。で、一昨年ようやく完成したのよ。 ショーリが私を『五大陸』にスカウトしに来た時、何処から情報仕入れてたのか知らない けど、どっちかというと私よりもウォルトンがお目当てだったのかもしれないわね。 何しろこの子は無駄によく喋るけど、役にも立つから」

「やーだなーぁ、フェイス。そんな優秀な僕を作れた君の凄まじい頭脳こそを、 ショーリは当てにしてたんだよー。僕はオマケみたいなもんだってーぇ」

「ヴォルフラム、フェイスはコンピューターサイエンティスト。凄腕のハッカーなのよ。 主に情報収集と分析、ITを担当してるわ」

「情報収集、か」

一応、分かったような顔はしたものの、今のポーラの言葉だけで、ヴォルフラムの頭の 中は超速で検索を始めなければならなかった。とにかく分からない言葉が多い。

「じゃあ、他の三人は何を?」

ヴォルフラムの問いに、ポーラはちょっと肩を すくめた。

「ま、基本的に全員、一通りの事は出来るのよ。ただ各々、これまでの経歴に因んだ得 意分野があるってだけで。私はLA市警の元刑事だし、ジャスティンはオーストラリア軍の退役軍人。 パスカルはSWATのスナイパーだったのよ」

「ほう……」

よく分か らない言葉もあったが、それでもこの地球産魔族たちは只者ではないらしいということ はヴォルフラムにも分かった。だが、ふと気になった部分があった。

「ところで、指揮官は誰なんだ?いくら少数精鋭とはいえ、上に立って指示する者が いないと、任務が速やかにいかないだろう」

「……強いて言うなら、俺ってことになってる。一応ね」

その声でハタと振り返った。

「ユーリ」

たった今戻ったらしき ユーリが、後ろ手に助手席側のドアをばたんと閉めたところだった。









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