4つの流動的要素   −7人−







9.





プルルルルルルルル、プルルルルルルル。

味も素っ気もないこの電子音で、ユーリは覚醒した。

ブラインドの隙間から日が差込み、寝台にいくつもの光の筋が出来ている。それを視 界の端にチラと入れ、夜が明けていることを確認するとすぐ、自分に絡みついた ヴォルフラムの四肢をどかした。

ぐちゃぐちゃに乱れたシーツと毛布の中を 泳ぐように体をずらして腕を伸ばし、サイドテーブルの携帯端末を手に取る。

通話ボタンを押すのと同時に、シーツにくるまったヴォルフラムがもぞもぞと動く気 配があった。今起きたらしい。

「ユーリだ」

通話口に向かってそう言うと、返ってきたのが、

『ちゃーちゃら、ちゃっちゃー、ちゃーらーらちゃーらーらー』

いつぞやの、「スターどっきりマル秘報告」のアイキャッチを再現する声。ポーラだ。

「…………」

携帯を耳に押し当てたまま、ネタの古さに呆れていると、相手は急に笑いを押し殺し たような小声で言った。しかも日本語。

『オハヨーゴザイマス』

「……おい、今どき寝起きどっきりネタかよ」

『え、今時?これ古いの?ケンが日本人には絶対受けるって言ってたのに』

「だからさあ、村田の言うこといちいちマジに取るなって前にも言ったじゃんか」

全くどいつもこいつも、とぼやきながら隣を見れば、寝起きぼさぼさ頭の ヴォルフラムが、ぼやーっとした顔で上半身を起こしたところだった。電話中のユーリ に向かって「?」という視線を寄越している。

『まあご機嫌のお悪いこと。あぁ分かった。やっぱ今朝は寝不足なんでございますね ー陛下。夕べはさぞ燃えたことでしょうから』

ポーラのバックで「あひゃひゃひゃひゃ」という複数の笑い声が聞こえた。

「……うるせー。それから陛下って呼ぶな、元刑事!」

今度はポーラを含めて「ぎゃははははは」だ。こっちの言っていることはスピーカー ホンで全員に筒抜けらしい。

『まー、それはともかく。もうヴォルフラムも起きてるの?』

「ああ。もう起きてるよ」

ヴォルフラムはユーリににじり寄り、自分も電話 の声を聞こうと顔を近づけている。

『それなら、はやいとこ身支度しちゃって、偽装車に戻ってきてよ。ショーリから 召集がかかったの』

「えっ、勝利が?」

とユーリ。ヴォルフラムも目をぱちくりさせる。

『そうよ。オンラインミーティングだって』

「いつも思うんだけどさあ、 オンラインでって、それ大丈夫なのかなあ」

『大丈夫なんじゃ ない? 今までだって平気だったし、最近またフェイスがセキュリティを増設した らしいから』

「あ、そうなの?」

『そうよ。というわけだから、今からきっかり30分後に開始よ。偽装車は今から 携帯に送る地図の場所に停めてあるわ。急いでね』

「了解」

ユーリは電話を切ると、大きく伸びをした。

「会議か?」

とヴォルフラム。

「うん。勝利の召集だっていうか ら、何か捜査方針に切り替えをしなきゃならなくなったのかもしれない」

「僕も行っていいのか?」

「当然だろ。ま、オンラインミーティングだから ちょっと戸惑うかもしれないけど」

「ほう……」

「ま、とにかく急いで服着て偽装車に……」

ユーリがそう言いながらベッドから抜けようとすると、

「ちょっと待てユーリ」

ヴォルフラムが軽く顔をしかめ、ユーリをシーツごとすっぽり抱きすくめる。

「何か忘れてるぞ」

「……ああ」

ユーリは抱きすくめられた格好のまま首だけ回し、ヴォルフラムに軽くキスした。 ヴォルフラムは満足げに微笑むと、今度は自分からユーリにキスする。

「おはよ」

「おはよう」

これだけは何処にいようと、毎朝の恒例なのである。









「これをかけてね。そう、で、こっちは口元に持ってくるの。こっちは本体ね。 ベルトみたく腰に巻いて頂戴。……そう、それで完了」

偽装車の中で、フェイスが戸惑い気味のヴォルフラムに装着させたのは、ウェアラブル・コンピュータ と呼ばれる、身に付けるタイプのコンピュータである。他のメンバーは、同じものを 慣れた動作で既に装着済みだ。

スクエア型のゴーグルがディスプレイ部分になっており、それを眼鏡のようにかける と、映像や画像を目の前で見ることが出来る。 ゴーグルの耳の部分にはイヤホンとマイクがついて おり、これで通信も可能なのだという。これらはケーブルで本体部分と繋がって おり、本体をベルトで腰に固定すれば装着完了である。

これで、いつ何処にいても、移動中でも、通信と映像のやり取りが出来るという わけだ。五大陸メンバーの必需品なのだという。

「慣れないうちは目が疲れるかもしれないから、そしたら無理しないで外しちゃって いいわよ」

「分かった。有難う」

そう言いながらも、ヴォルフラム はこの奇天烈な機械に興味惹かれているらしい。
基本的な操作の仕方を教わって いる間も熱心な様子である。ユーリはそれを微笑ましく見守っていた。

「じゃ、そろそろ繋ぐわよ。みんな、いい?」

メンバーらが各々自分の定位置 に腰掛け、ウェアラブルの設定を調整し出す。フェイスはデスクトップPCを いじり、ウォルトンに向かって呼びかけた。

「全員オンライン。ショーリを呼び出して頂戴」

「了解っ!」

そしてウォルトンの返事から少し経った後、全員が装着しているゴーグルに、 デスクに座った渋谷勝利の姿が映し出された。そして、イヤホンから淡々とした 声が聞こえてくる。

「お早う、諸君。夕べはご苦労だった。早速ミーティングを始めよう」









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